体験談:鈴木啓之師
「刺青クリスチャン」より抜粋

 

極道ゴスペルフェスティバル

一九九四年、私たちはまた思いがけないことをすることになりました。 アメリカとカナダに伝道旅行に行くことになったのです。アメリカ西海岸の日系人教会を中心に、自らの証をし、生まれ変われることを訴えていこうというわけです。名づけて「極道ゴスペルフェスティバル」。

 参加したバラバのメンバー五人は、皆自費で成田にかけつけ、初めてのアメリカ行きに興奮したのでした。  そうです。私たちはそれまで東南アジアには遊びや密輸でよく行っていたものの、暴力団の入団チェックが厳しいアメリカには足を踏み入れることができませんでした。ですから渡米、西海岸というだけで嬉しくてたまりませんでした。

 でも、いざ到着して入国審査を前にすると、皆心配で顔色が悪くなりました。もしかしたらブラックリストに載っていて入国できないかもしれません。

 案の定、吉田さんがつかまって、なかなか出てきません。心配も極みに達した頃、やっと姿を現しました。 「どうしたんですか?」 「大丈夫だったんですね」

 私たちは口々に尋ねました。吉田さんは口元に微笑を浮かべて言いました。 「コンピューターってすごいもんですね。私の名前が載ってましたよ。マフィア・ボスとして」 「ええ!? それでよく出てこられましたね」 「クリスチャンの日系人の女性がいましてね、教会での集合のチラシを見せましたら、覚えていてくれたんです。それで彼なら大丈夫だって言ってくれて……。彼女が天使に見えましたよ」

 そんなスタートだったけれど、このアメリカの伝道旅行はどこでも大歓迎を受けました。教会だけでなく、学校や少年鑑別所などにも行きました。時には当地のギャングが何人もで来て最前列に座り、突っ張っていたこともありましたが、私たちの話を開いた後ではサングラスの陰に涙が光り、握手を求めてきました。

 宿泊先は、行く先々の信者宅にホームステイ。最初は怖そうにしているのが、最後は抱き合い、肩を叩いて再会を約束してくれました。